ゆるふわな君の好きなひと
君の溺愛
翌朝。遅刻スレスレで教室に入ってきた由利くんの頬に、小さなすり傷ができていた。
「おはよう、青葉」
カバンをおろすよりも先に、席に座っているわたしのところに近付いてきた由利くんが、嬉しそうにふにゃっと笑う。
だけどわたしは、由利くんの白い肌に残る細い線のような赤い傷が気になった。
「それ、どうしたの?」
挨拶そっちのけで、自分の左頬を人差し指でつつくと、由利くんが「ん?」と首を傾げながら左頬を撫でる。
どうやら、わたしに言われるまで気付かなかったらしい。
「あー。さっき顔の前で思いっきりカバン振り回されたんだよね。ギリギリ避けたけど、キーホルダーみたいなやつがちょっとかすった気がする」
「カバン振り回された、って。なんで?」
登校中に、ぐるぐる回りながら歩いている人でもいた、とか?
不思議に思ってまばたきする。
そんなわたしを見て、由利くんが珍しく、少し気まずそうな顔をした。
「昨日、放課後に遊ぼうって誘われてたのにすっぽかしたから」
昨日……。すぐに思い浮かんだのは、隣のクラスの岡崎さんの顔だった。