ゆるふわな君の好きなひと
「約束を守れなくなったなら、それがどんな相手でもちゃんと断って謝らなきゃ。じゃないと、由利くん、これからいくつ傷作っても足りないよ?」
つい小さい子を諭すみたいな口調でそう言ったら、由利くんが「はーい」と不服そうに頷いた。
ちょうどそのとき予鈴が鳴って、由利くんのやる気のない返事がかき消される。
「んじゃー、あとでね」
振り向いて黒板の上の時計を確認した由利くんが、ずり落ちてきたカバンを肩にかけ直して歩き出す。
「あ、待って。絆創膏、いる?」
思わず呼び止めたら、由利くんが振り向いてふわっと微笑んだ。
「もしものときにって前言ったの、覚えててくれたんだ?」
「き、今日はたまたま持ってただけだよ……」
「そーなんだ。残念」
由利くんが、ちょっとがっかりしたように口を尖らせる。
恥ずかしくて誤魔化したけど、ほんとうは結構前から絆創膏を持ち歩くようにしていた。
由利くんは守るつもりもない約束を適当にしちゃうような人だから、誰かとトラブルになってケガした「もしものとき」に、少しは役立てるように……。
「はい」と、雑に絆創膏を押し付けると、由利くんがふらっと寄ってきて、わたしに顔を近付けてくる。
「それ、青葉が貼って」
にこっと笑いかけてられて、心臓がドクンと跳ねた。