ゆるふわな君の好きなひと
「何笑ってんの?」
「別に……」
「ふーん。それよりさ、青葉、今日こそ一緒に帰ろ」
「部活あるでしょ」
「そうだけど……」
すぐに誘いにノらなかったせいか、わたしを見上げる由利くんの表情が若干不満げだ。
ふっと思わず笑ってしまったあとに、由利くんの部活が終わるまでどこかで待っててもいいかなと思う。
提案しようとしたら、スカートをつかんでいた由利くんの手がつつーっと移動して、わたしの左手の人差し指をきゅっと握りしめてきた。
「晴太に見つかる前に帰っちゃう?」
悪戯っぽく笑う由利くんは、わたしが頷きさえすれば、本気でそれを実行してしまいそうだ。
「そんなことしたら、眞部くん、めっちゃ怒るよ。昨日だって、すごく怒られてたじゃん」
「へーきだって。行こ!」
さっきまで机に伏せてダラダラしていたのに、わたしの手を引いて立ち上がる由利くんの動きはものすごく俊敏だ。
ふだんの動きは、かなりの省エネモードらしい。
部活も授業も、これくらいやる気出せばいいのに……。
「青葉、早く」
由利くんが、苦笑いするわたしの手をグイグイと引っ張る。
そのまま教室を出て走り出そうとするから、由利くんのことを全力で引き止めた。