ゆるふわな君の好きなひと
「ちょっと待って、由利くん。部活はちゃんと出なよ。わたし、────」
終わるまで待ってるし。そう説得しようとしたとき、背後から殺気を感じた。
わたしの向こうに何かを見つけた由利くんが「あ……」と口を開いて……。
「やべ。見つかった」と、残念そうにつぶやく。
「見つかった、じゃねーし。何サボろうとしてんだよ、圭佑」
そっと振り向くと、仁王立ちで立った眞部くんが目を三角にして由利くんを睨んでいた。
「今日だけ見逃してよ」
由利くんが可愛く首を傾げながらヘラリと笑う。
でも、そんな可愛さが付き合いの長い眞部くんに通用するはずもなく……。
問答無用で、眞部くんは由利くんとわたしの手を引き剥がした。
「圭佑のことは、これまで充分に見逃した」
眞部くんが低い声でそう言って、由利くんのシャツの後ろ襟をガーディガンと一緒にぎゅっとつかんで引っ張り上げる。
「せっかく青葉と一緒に帰れると思ったのに」
猫のように首根っこをつかまれた由利くんが、文句を言いながらジタバタしている。
「つーちゃんと仲直りできるまではと思って大目に見てやってたのに。仲直りしてもサボるなら、つーちゃんとの交際は禁止するからな!」
「はぁ? 晴太、お前、誰のおとーさんだよ」
「誰がおとーさんだよ……!」
黙って聞いていたら、ふたりの言い合いが部活とは違う方向に進み始めた。
そばを通り過ぎていく生徒たちも、何事かって顔をして、由利くんたちのことを見ている。
「あ、の……。とりあえず、ふたりとも部活行ってきたら?」
ふたりのあいだに割って入ると、由利くんがわたしのカーディガンの袖をつかまえて、恨めしげな目でじっと見てくる。
「青葉はおれと一緒に帰りたくないの?」
「そうじゃなくて……。待ってるよ。由利くんの部活が終わるまで」
苦笑しながらそう言うと、由利くんの瞳がパッと輝かせる。
もしかして、またなにかロクでもないこと思いついたのかな。
嫌な予感に震えると、由利くんが何か企んだような顔でニヤッと笑いかけてきた。