ゆるふわな君の好きなひと
「眞部くん、相変わらずだよね。あと一日頑張んないとね」
ふたりのやりとりに苦笑すると、仲良さそうに歩いていく眞部くんと璃美の背中を見送っていた由利くんがわたしのほうに視線を向けた。
「今回はまじめにテスト受けるよ。青葉に教えてもらったし」
だらんと床につきそうになっていたスクールバッグを肩にかけ直しながら、由利くんが口元を緩める。
「じゃ、ね」
わたしに向かって胸の前で小さくバイバイしてから、踵を踏ん付けた上履きをペタペタ鳴らして歩いていく由利くん。歩く度に軽く揺れる薄茶の頭の後ろを見つめながら、言われた言葉に時間差でキュンとした。
まじめに受けてくれるなら、テスト前の一週間を由利くんのために使った甲斐がある。
勝手に緩んでしまう顔を隠すために口元に英単語帳をあてる。だけど、あんまり意味はなかった。
「バレてるよ。ニヤけてんの」
そばに立っていた咲良に指摘されて、英単語帳では隠しきれないくらいに顔が熱くなる。
「ニヤけてないよ」
「ぶっちゃけ、どうなの? 紬と由利くん」
「どうって?」
「仲良いでしょ。テスト前の一週間も、ほぼ毎日、放課後に由利くんと一緒に勉強してたでしょ。ウワサになってたよ。ついに紬と由利くんが付き合いだしたー、って」
「誤解だよ。わたしはただ、テスト範囲教えてって頼まれただけ。教えないとスカート掴んで帰らせてくれないから、仕方なくだし……」
「仕方なくなんだ?」
早口で言い訳するわたしに、咲良が意地悪く笑いかけてくる。じっと覗き込むように真っ直ぐに目を見られて、顔が耳まで赤くなった。
これでは、いくら言葉で言い訳したも本音がバレてしまう。