ゆるふわな君の好きなひと
「何?」
「何、じゃなくて。わたしが先に寝てたんだから、由利くんは他のベッドで寝てよ」
「んー、もう移動したくない」
眉をしかめて、子どもみたいに首を左右に振る由利くんに困ってしまう。
わたしが他のベッドに移動すればいいのかもしれないけど。先に寝ていたのはわたしなのに……。
ベッドを奪われて追い出されるなんて、どう考えても納得いかない。
なんとか由利くんに移動して欲しくてもう一度肩を揺さぶる。
そのとき、彼の左頬にまだ新しい切り傷があることに気が付いた。
「ねぇ。これ、どうしたの?」
もう乾いているけれど、頬の切り傷には血が滲んだ痕があって痛そうだ。
気にして見ていると、目を開けた由利くんがぼんやりと天井を見上げながら左頬を撫でる。
「んー? そういえば、さっき叩かれた」
「誰に?」
「知らない女子」
「知らない……?」
知らない女子に叩かれる、って。いったい何があったんだろう。
由利くんの発言に眉をしかめる。
一方の由利くんは、空洞みたいな目をしてぼんやりと天井を見上げながら、相変わらず左頬を撫でていた。