ゆるふわな君の好きなひと

◇◇◇


 家から徒歩圏内にある高校に進学したわたしは、電車で三十分くらいかけて通学してきている璃美たち三人とは駅前で解散。


「久我山先輩のこと、もしマジで協力して欲しいってなったら、いつでも言ってよ」

 根が世話焼きな眞部くんは、別れる間際まで笑ってそんなことを言っている。


「ありがとう。でも、ほんとうに大丈夫だから」 

「遠慮しないでいいからな」

「別に、遠慮はしてないよ」

「もう、晴太はしつこいってー。つーちゃんの意志を尊重してあげてよ」

 呆れ顔で眞部くんのカーディガンの袖を引っ張る璃美と無表情でずっと黙っている由利くんに挟まれて、おせっかいを焼いてくる眞部くん。

 いつも一緒にいるのに、三人のタイプもわたしの恋バナ(ではないんだけど……)に対する反応も違いすぎて。苦笑いを浮かべるしかない。


「じゃぁ、また明日ね。つーちゃん」

「うん、明日」

「由利くんも、行くよー」

 眞部くんの腕を引っ張りながら改札のほうへ歩き出した璃美が、振り向いて由利くんを呼ぶ。


「由利くん、帰らなくていいの?」

 呼ばれてもなんの反応も示さない由利くんに声をかけると、彼が無表情でわたしのことをジッと見てきた。

 由利くんはカラオケを出てからひとことも言葉を発してない。

 完全な無表情で、表情筋が死んでる。

 もしかして……、テストと苦手なカラオケで疲れちゃったのかな。

 保健室で初めて出会ったときも、由利くんは無表情で。眞部くんが「圭佑は極限に眠いと表情筋死ぬんだ」って笑いながら教えてくれた。

 それ以来、たまに由利くんの表情を観察するようになったのだけど……。

 たしかに、無表情になったその直後は、机に伏せて寝るか、ふらふらーっと教室から出て行っている。

 たぶん、保健室の窓際のベッドで昼寝してるんだと思う。

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