ゆるふわな君の好きなひと

「由利くん、もしかして眠い?」

 クスッと笑うと、由利くんが「別に」と首を横に振る。その声は少し不機嫌そうだった。


「晴太ー、先に泉尾さんと帰っといて」

 後ろを向いた由利くんが、改札の前で待っている璃美と眞部くんに声をかける。


「いいけど、どうかしたのか?」

「行くとこあったの思い出したから。そこ寄ってから帰る」

 行くところと言っても、駅前にはチェーンの飲食店とカラオケ。あとはレンタルショップと本屋くらいしかない。 

 そういうものなら、たぶん由利くんたちの地元の駅にもあるだろう。

 わたしと同じようなことを思ったのか、眞部くんがいぶかしげに眉根を寄せる。


「……ふーん。じゃぁ、先帰っとくな」

 けれど、眞部くんは由利くんの行き先について深く追求しなかった。

 眞部くんと璃美が改札の向こうに消えてしまうと、ふたりだけになったわたしたちのあいだに妙な沈黙が流れる。


「あ、じゃぁ……。わたしもそろそろ帰ろうかな」

 思いきって、わたしのほうから沈黙を破ってみたけれど、由利くんは無反応。

 なにを考えているのか、よくわからない。

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