ゆるふわな君の好きなひと

「由利くんも行くところあるんでしょ。また明日ね」

 仕方ないので、手を振って帰ろうとすると、由利くんが無言でわたしのカーディガンの袖をぎゅっと捕まえた。


「由利くん……?」

「青葉の家ってここからどれくらい?」

「歩いて十五分くらいだけど……」

「じゃぁ、送ってく」

「え、でも……。行くところあるんでしょ?」

 由利くんの言葉に戸惑う。だけど……。


「あるよ。青葉ん家」

 由利くんがそう言いながら笑いかけてきたから、ますます戸惑った。


「うちに来てどうするの……?」

「別に、何も。家の前まで青葉のこと送って行くだけだよ。なんとなく、そういう気分だから」

 なんとなく、って……。どういう気分……?

 どうして急にそんな気まぐれが発動したのかさっぱりわからない。


「また、璃美と眞部くんをふたりで帰らせてあげようっていう気遣い?」

「青葉がそう思うなら、それでいいよ」

 わたしの質問に、由利くんが曖昧な答えを返してくる。


「家、どっち方面?」

「あっちだけど……」

 家の方向を指差すと、由利くんがわたしのガーディガンの袖からするっと手を離して歩き出した。

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