ゆるふわな君の好きなひと
「うち、そこだから」
しばらくして見えてきた自宅マンションを指差すと、由利くんが無言で頷いた。
「また明日ね?」
反応の薄い由利くんに困りつつ手を振ると、不意に彼がその手をぎゅっとつかまえてきた。
え、なに──。
癖なのか、由利くんはよく、離れようとするわたしの服の袖やスカートの裾を唐突につかんでくる。
だけど直接手に触れられたのは初めてで。大きくて意外に硬い手に、心音が高鳴った。
「由利くん?」
名前を呼ぶ声が、少し震える。
女の子も顔負けなくらいの大きな目でわたしのことをしばらくジッと見ていた由利くんは、人の心拍数を上げるだけあげておいて、何も言わずに手を離した。
「おれ、晴太たちといるのも好きだけど、青葉と一緒にいるのも好きだよ」
由利くんが、目を細めてふわっと笑う。
さっきまで不機嫌そうに黙っていたくせに。
どうして急に耳に残るような少し甘い言葉を口にするのか、由利くんの思考回路はわたしには理解できない。
気まぐれな彼の感情の起伏に追いつけない。
だけど、心臓だけはずっとドキドキ鳴っている。