ゆるふわな君の好きなひと
◇◇◇
テスト週間が終わって何日か過ぎた日の放課後。璃美がひとりでわたし達の教室にやってきた。
「璃美、どうしたの?」
わたしが声をかけると、璃美が「あ、つーちゃん」と手を振りながら、教室の中へと視線を巡らせる。
「今日は晴太の代理で由利くんのこと誘いにきたんだ」
「由利くん?」
「そう。あ、いたいた。また寝てる……」
窓際の前から二番目の席に伏せている由利くんの姿を見つけた璃美が、呆れ顔で息を吐く。
「由利くーん、部活行くよ」
口元に手をあてた璃美が教室の窓に向かって大きな声を張り上げると、うつ伏せていた由利くんの肩がビクリと反応した。
「由利くーん、起きて。部活遅れちゃう」
もう一度呼ばれて、由利くんがゆっくりと頭を起こす。
しばらくぼーっと正面を見つめてから廊下のほうに顔を向けた由利くんは、璃美の姿を視界にとらえると怪訝そうに眉根を寄せた。
「なんで今日は泉尾さんなの?」
「頼まれたから。嫌そうな顔しないで、行くよ!」
璃美に急かされ、由利くんが少し面倒臭そうに椅子から腰を浮かす。
無造作につかんだカバンを引き摺りながら璃美のほうに歩いてきた由利くんは、誰かを探すように廊下をきょろきょろ見回した。
「晴太は?」
いつも、部活の前の由利くんのお迎えは眞部くんの役目だ。
それなのに璃美が呼びに来たのが不満らしい。