ゆるふわな君の好きなひと

「青葉―、聞こえてる?」

「聞こえてる……」

「どこいるの?」

「もう、帰った」

 ボソリとそう言うと、数十秒の間を空けて「え?」と由利くんの怪訝な声が返ってきた。


「帰ったって、なんで? 待っといて、って言ったじゃん。どこまで帰ってんの? 駅の近く?」

 校門を出て歩き出したのか、由利くんの微妙に不機嫌そうな声に、ざわざわと風の音が混じる。


「もう家ついてる」

「え、なんで?」

「…………校門のところで友達に会って、一緒に帰ろうって誘われたから」

 適当に嘘をついたら、電話口で由利くんが息を吸い込むような気配がして、そのまましばらく無言になった。


「おれと約束してたよね。返事ちょうだいって言ってた」

 由利くんの声のトーンが下がって、電話越しでも彼の不機嫌が伝わってくる。

 彼の不機嫌な声が、わたしが胸のなかに抑えていた感情を刺激した。

 そんなふうに言うなら……。

 約束してたって自覚があったなら、一年生のあの子なんて振り払ってさっさと来てよ。

 わたしよりもあの子との話を優先させたのは由利くんじゃん。

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