幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
お店を出るとまた私は頭を下げ、お礼を言う。

「ひまり、何度も言わなくてもいいんだ。俺がしたくてしていることなんだから」

「ううん。楓ちゃんが大変な仕事をして稼いでるお金だもん。それに私にこんなに使ってたら彼女に怒られるよ」

私は反応を伺うように聞くと、今はいないとぶっきらぼうに答えた。
昔から2人とも隣に女の子がいたのに最近楓ちゃんはいないのかな?機嫌が悪いし別れたばかりなのかな。

「さ、次に行こう」

話題を変えるように肩を抱かれるとドキッとする。
私たちはお揃いのマフラーをつけ、肩を抱かれ歩く姿はまるで付き合っているみたい。
でも…… 私と楓ちゃんの背は20センチ以上違うし、見た目にも地味な私とはバランスが取れていない。見た目のいい楓ちゃんの隣にいるのは私とは違う可愛い女の子なのだろうと思うと胸の奥がチクチクした。

楓ちゃんにせめて何か返したいと思っても何でも持っている楓ちゃんには返せるものがない。

「楓ちゃん、何かお礼したいけど何も思いつかないの。ごめんね。何か欲しいものとかある?」

突然の質問に楓ちゃんは考えあぐねる。
しばらく立ち止まり悩んでいたが、珍しくボソボソと楓ちゃんが言い出した。

「なら、ひまりの手料理食べたいな」

「手料理?」

「あぁ、昔よくおばさんと作ってくれただろ?」

陽ちゃんと楓ちゃんのお母さんが仕事で遅くなる時にはたまにうちで夕飯を食べていたことがあった。私はキッチンに立つのが好きでよく一緒に作っていたのを覚えていたんだろう。

「楓ちゃん、いつもお母さんと作ってたから1人だと上手にできないよ」

「いいんだ。なんとなくひまりがキッチンに立つ姿が懐かしいと思っただけだから」

社会人になって6年、一人暮らしになり楓ちゃんはうちに来ることがなくなってしまった。

「簡単なものでいいなら作るよ」

「いいのか?」

言いにくそうに話していた楓ちゃんだったが顔を上げ、満面の笑みで私を見た。

「俺も手伝うから一緒に作ろう。買い物に行くか」

「今日⁈」

「まだお腹も空かないし、一緒に作ったらどうかと思ったんだが」

今日だとは思わなかった。
でもそんな私の反応に楓ちゃんはがっかりしたような姿を見せた。
犬の尻尾がぐるぐる回っていたのに一気に萎れたように見えた。楓ちゃんとは3歳違うのに今日は年上に見えない。こんな楓ちゃんもいたんだと思ってクスッと笑ってしまった。
いつも真面目でしっかりしてて、曲がったことが嫌い。でもすごく周りに気配りのできる人。そんな楓ちゃんにもこんな一面があるんだと思うと可愛く思えてしまった。

「楓ちゃん! 今日にする? でも練習してないから簡単なものしかできないよ。いいの?」

「もちろん」

また尻尾が回り出すのが見えた気がした。
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