幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
「さ、行こう」

楓ちゃんに促され、私は自動ドアへ向かった。後ろから陽ちゃんがきて、私の肩を組む。

「楽しみだな。ひまりと滑りに来るなんて久しぶりだもんな」

そう言いながら相変わらず明るい陽ちゃんにホッとした。

「陽太!馴れ馴れしいんだよ」

後ろから楓ちゃんの声がした。

「へ?」

私たちは振り返ると不機嫌な顔をした楓ちゃんがいた。陽ちゃんが私の肩に乗せていた手をはたき落とした。

「いて。なんだよ楓太、痛いじゃん」

「ひまりに馴れ馴れしいからだろう。もう少し距離を保てよ」

いつもの陽ちゃんと何も変わらないのにどうして怒るんだろう。お兄ちゃんとして慕っているのがいけないの?
でも、この前楓ちゃんだって私の腰を抱いて歩いてたじゃない。あの時の方がよっぽどか密着していた。
楓ちゃんの言葉と行動に理解ができずにいると陽ちゃんは呆れ顔で苦笑いしていた。

しばらく中級者コースで滑った後、陽ちゃんはいつものように1人上級者コースへ滑りに行ってしまった。根っからのスノボが好きな陽ちゃんは女の子からの視線を集めたいわけではないので数えきれないほど滑りまくる。その間に注目を浴び、結果として女の子が群がるという構図ができる。今回もきっとそうなるだろう。ゴーグルを取った陽ちゃんはさらに魅力的だから仕方ない。

「ひまり、もう少し滑る? 休憩する?」

「楓ちゃんも上級者コース行ってきていいよ。私は何本も滑ったから休憩してくるね」

私はそういうとボードを持ち歩き始めた。
すると楓ちゃんも横に並んで歩き出した。

「楓ちゃん?」

「俺も久しぶりだから疲れた。休憩するよ。ひまりはお決まりのホットチョコレートだろ?」

そう言われると私はつい頬が緩んだ。
滑りにくると必ず一度や二度は飲まずにいられない定番のホットチョコレート。
疲れた身体に染み渡る。
久しぶりのスノボに楽しいけれど心地よい疲れを感じ、実はさっそく飲もうと思っていたところだった。

楓ちゃんと並んでレストハウスへ入るとゲレンデの見える席に座った。
楓ちゃんは私を座らせると買いに行ってくれたため私は、ぼーっとゲレンデを眺めていた。
すると陽ちゃんが下りてくるのが見えた。いつもながらとても綺麗なフォームでゲレンデを颯爽と滑る姿は多くの人の目を引く。ここから見ていてもすぐに陽ちゃんだとわかるほど周りとは違った雰囲気がある。
相変わらず格好いいなぁ、と眺めていると楓ちゃんが隣に腰かけてきた。

「ほら、ひまりの分」

「ありがとう」

私は受け取るとフーっと息を吹きかけてから口にした。甘く温かいホットチョコレートは私の体に染み渡る。
飲んでいると陽ちゃんと目が合い私に手を振ってきた。私も振り返すと周りにいた人たちが私の方を一斉に見てきた。
視線の先にいた私を見て、また陽ちゃんを見返すと似合わないとでもいいたそうな顔をしていた。
いつもの光景だけど少しげんなりする。
そう思っているとふいに楓ちゃんが私の肩を抱いてきた。そして陽ちゃんに手を振っていた。さっき陽ちゃんに注意したばかりなのに同じことを楓ちゃんがしてる。
驚いた私は楓ちゃんの顔を見上げると目が合う。私を見つめる目があまりに優しくて私は楓ちゃんのことを見続けることができず前を向くと陽ちゃんのことを見ていた人たちの目がさらに驚いた顔になっていた。
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