幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
「楓太、相変わらずモテてんな。あっちはいいのか? 俺はひまりとご飯食べて滑ってきても良いぞ」

陽ちゃんはそう言うと私の肩に手を回してきた。
するとまた楓ちゃんはその手を叩いて陽ちゃんのことを睨んだ。

「勝手にあいつらが来ただけだ。俺がひまりとお茶してたんだ!お前はどうして戻ってきたんだよ」

「もちろんお茶するためだよ!」

同じ背で同じ顔の2人が私の頭上で言い争いになり始めそうなので私は陽ちゃんの服を引っ張り止めた。
陽ちゃんは面白くなさそうだったが私の顔を見るとそれ以上は何も言わなかった。
3人で先ほどの席へ戻ると彼女たちは無言でどこかへ行ってしまった。

「陽ちゃんは何飲む? 私は楓ちゃんがホットチョコレート買ってきてくれたの。陽ちゃんも飲む? 買ってこようか?」

「自分で買ってくるよ」

そう言うと私の頭にポンと手を乗せると立ち上がり買いに行ってしまった。

「ひまり、帰ってくるの遅かったな」

不機嫌そうな声でそう言われて私は萎縮する。

「ごめんなさい」

私の声を聞き、楓ちゃんはハッとしたように声色をいつものように戻した。

「俺こそあの子たちがいたから戻りにくかったんだよな。ごめんな。別に相手をしてたわけじゃないし、連れがいると何度も言ったんだがなかなか離れてくれなくて」

「うん……。相変わらず陽ちゃんも楓ちゃんもモテてるもんね」

私は空笑いをしながらゲレンデを見つめていた。

「俺は……」

楓ちゃんが何かいいかけたところで陽ちゃんはいつもと同じテンションで戻ってきた。

「ひまりー! お前の好きなクルクルポテトあったよ。食べるだろ? ほら、楓太の分もあるから座れよ」

「あ、あぁ」

陽ちゃんのおかげで気まずい雰囲気を引きずることはなかった。
おやつの後はまた中級者コースを3人で滑り楽しく過ごせた。

温泉に入り、夕飯を済ませるとロビーからは打ち上げ花火が見れた。
雪上の花火はとても綺麗で、打ち上げ花火の下ではスタッフが花火を手に滑走してくるのが見える。あっという間に終わってしまった花火を満喫し終えると2人に誘われラウンジへと移動する。久しぶりの旅行だし少し飲もうと誘われた。
ラウンジに移動する前私はトイレに立ち寄ると昼間楓ちゃんに話しかけていた女の子たちとかち合った。

「あの、さっきの男性たちの妹さんですか?」

「いえ。妹では……」

「ではどちらかの彼女さん?」

「いえ、違います。幼馴染です」

「なーんだ、やっぱり。そうだと思ったんですよね。あの2人とじゃ釣り合わないし」

3人がそれぞれ同じようなことを口にする。
私は昔から同じことを言われ続けてきたからこの人たちに言われなくても分かっている。
胃の辺りがキリキリと痛み出す。
久しぶりに言われたからちょっと傷ついただけだ。

「幼馴染さん、私たちこれから一緒に飲みたいので誘いに行って良いですか? 私たちと
飲む方が彼らもきっと楽しいですよ。良いですよね?」

勝手な言い分にも私は慣れてる。
いつものこと、と自分を言い聞かせトイレを後にした。
ラウンジに戻ると私は2人に声をかけた。

「ごめん、朝早かったし疲れちゃったみたい。やっぱりもう寝ることにするね。また明日ね!」

私はそれだけ言うとすぐにその場を後にした。
ラウンジの入り口には彼女たちが立っていて
ニッコリと微笑まれた。
私と入れ替えにラウンジの中に入っていくのを見て私は2人の様子を見たくなくて小走りでその場を離れた。

部屋へ戻ると布団の中に潜り込んだ。
ぎゅっと自分の体を縮めると呪文のように何度も「大丈夫、いつものこと」と繰り返し唱えた。
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