幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
「悪いな、迷惑かけて」

「そんなことないですよ。私もスピードが出てたから衝突してごめんなさい」

「君がぶつかってきたのは痛くなかったよ。乗っかられたのも綿飴のようにふわふわと軽かった」

「そんな冗談がいえるなら大丈夫ですね」

クスッと笑いながら歩き続ける。
そんな私を見て彼も気を緩め先ほどよりも気軽な雰囲気になった。

「どこからきたの?」

「東京です。あなたは?」

「俺もだ。午後帰るつもりだったが長時間の運転は辛そうだから考えるしかないな」

確かに歩けてはいるけれどずっと腰に手を当てたままだし、痛いのを庇っているのか時折左足を引きずっている。

「病院で診てもらってからですね」

「そうだな。全く情けないよ。久しぶりでついテンションが上がってしまったらこんなことになるなんて」

しょげた様子がなんとも可愛らしい。
さっきまではどこか威厳のある言い方で転んだことを恥じていたが徐々に素が出てきたようだ。

「私も久しぶりだったから気持ちはわかります。なんでしょうね、雪山をみるとテンションの上がるこの感じ」

「そうだろう? 東京にはこの景色はないからな。それに学生の頃のようにからないからか思う存分楽しまないと、と思うとやり過ぎてしまう」

「そうなんですよね! 今を楽しまないと、と思ってしまいますよね。明日から仕事だからそこを考えないといけないんですけどここにいる限りは楽しまないともったいないって思ってしまいますよね」

「明日から仕事、だなんて現実に引き戻されるな。俺も仕事なんだよ」

お互いだんだん慣れてきたのか、彼はとても気さくで話が盛り上がる。
徐々にプライベートな話になり、彼はうちの隣の駅に住んでいることがわかった。

ようやくレストハウスへ戻るとボードを置き椅子に座った。
彼は大きく息を吐くとそっと椅子に腰掛けた。

「飲み物買ってきますね」

「ありがとう」

私は2人分のホットチョコレートを購入すると席に戻る。
が、彼がこんなに甘いホットチョコレートを飲むのか不安になった。

「ごめんなさい、ついホットチョコレートにしてしまいました」

「ありがとう。疲れたから実は甘いものが欲しかったんだ」

そう言うとニヤッと笑い受け取った。
茶目っ気のある顔に惹かれるものを感じた。
歩いていた時には分からなかったが正面に座った彼は私よりは年上に見える。それよりも彼の整った顔に驚いた。少し彫りの深い顔立ちにゆるくウェーブのかかった栗色の髪の毛。
私はうっかりその顔に見入ってしまった。

「飲まないの?」

そう言われて我に返り、思わずグッと飲み込んだ。

「熱い!」

「ほら、気をつけて」

私の顔を見ながら笑う彼の表情はまたなんとも言えず惹かれるものがあった。
一息つくと私は病院にかかれるようホテルのフロントで声をかけた。するとすぐ近くにクリニックがあるというのでそれを彼に伝えると彼はそのまま向かおうとする。しかしいちど座ったのでまた立ち上がるのも大変そう。
私は彼を支え立ち上がらせてあげた。

「何から何まで悪かったよ。ありがとな」

そう言うと私の肩に手をポンと置くと別れた。
けれどその後ろ姿は痛々しく、心配になってしまった。

私はまた滑りに行く気にもなれず、そのままレストハウスで休んでいると楓ちゃんがひとりで戻ってきた。
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