幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
「ひまり。滑ってたのか? 会わなかったな」

「うん、私は中級者の方で今日も滑っていたから。陽ちゃんは?」

ゲレンデの方を見ていると隣に座ってきた。

「あと1本滑って終わるってさ。なぁ、これ何?」

楓ちゃんは彼が飲んでいたホットチョコレートのカップを指差した。

「あぁ。さっきぶつかってしまって一緒に歩いて下山してきたの。そのまま一緒に休憩したんだけど、今さっきクリニックに行っちゃったの」

「ひまりは怪我してないのか?」

楓ちゃんは私の手を掴んで向かい合わせになった。
心配性なのは相変わらずだな、とその態度にほっとする。

「うん、相手の人はひとりで転んでいたところに私がぶつかったんだけど転んだだけでどこも痛くない。でも相手の人は腰を打ったみたい。歩けていたけれどだいぶ痛そうだったの」

「そうか。かわいそうに」

見たこともない人をかわいそうにと心配してあげられる楓ちゃんはやっぱり優しい。
そんな楓ちゃんだから彼女たちにも優しいんだとはわかってる。でもそれだけじゃなくなったら?いつか本当の彼女ができて、結婚する日が来ることはわかっている。それも二人の年齢から考えると近い未来だろう。まともに正面から向き合えるのかわからない。
胸の奥がもやもやとしてしまう。
小さなため息がこぼれたが、悩んでいても仕方のないこと。

そんなことを考えていたら、滑り終わった陽ちゃんがこちらに向かって手を振る姿が見えた。

「あ、滑り終わったみたい。行こうか」

私は立ち上がり2人分のカップを片付ける。
楓ちゃんは私に続いて立ち上がると陽ちゃんの元に進む私の後ろをついてきた。
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