幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
ようやく公園のなかほどまできたところで立ち止まると私をベンチに座らせた。

「ひまり、さっきのあいつは誰だ?」

楓ちゃんの冷たい声に私は萎縮しつつ小さな声で彼の質問に答えた。

「町屋さん。彼とはこの前のスノボで出会ったの。ぶつかって一緒に歩いて下山したって話さなかった? あの時の彼だよ」

「確かにぶつかったと言ってたな。それが男だったとは聞いていない。ましてやその後、連絡を取り合っていたなんて聞いてないぞ」

「たまたまお店にお菓子を買いに来て、偶然再会したの。それまでは名前も知らなかった」

楓ちゃんはまだ私の手を掴んだまま離さない。真剣な表情でまた質問を続ける。

「何でご飯に行ってるんだ?」

「町屋さんはあの時のお礼だって最初食事に連れ出してくれたの。それでそこから連絡先の交換をするようになって時々やり取りをしているの。話をしてると楽しいし……」

私が彼の話を始めると楓ちゃんの表情は険しくなってきて徐々に私の声は小さくなっていった。

「そんな奴と出掛けてはダメだ! ひまりは危機感がなさすぎる。男なんて下心があるからご飯に誘うんだ。そんなこともわからないのか」

楓ちゃんが何を考えているのかわからない。
自分だってあの時、女の子たちに声をかけられていたじゃない。これまでだって楓ちゃんにしても陽ちゃんにしても女の子が常にそばにいたじゃない。
何でこんな勝手なことを言うのよ。
私だってもう25歳。
そろそろ恋愛をしてみたい。
男性と食事にだって行ってみたい。
ふつふつと私の中で何かが爆発した。

「何なの? 私は楓ちゃんにそんなことい
われる筋合いないよ。私のことは放っておいてよ」

私は捕まれた手を振り解いて立ち上がった。

「何でも押し付けてくる楓ちゃんなんて嫌い。私の気持ちなんて何も分かってないじゃない。いつまでも小さな子だと思わないでよ!」

私はそう怒鳴ると走り出した。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきたが振り返らず走った。
さっきまで楽しく食事をしていたのにこんなことになるなんて。
楓ちゃんのせいで台無しになった。
私は悔しくて涙が溢れてきた。
自分達は女の子がいつもいて、私といても釣り合わないと周りからは鼻で笑われて惨めな気持ちになってばかり。
この前だって私はふたりと楽しくスノボがしたかっただけ。
それなのに……。
もう嫌だ。

私は走って家に帰ると自室へこもり、ベッドの中で声を殺して泣いた。
いつもふたりにとって私は大事な妹。
周りからもそれ以上にはみてもらえない。良くも悪くも近い存在。
そんな彼らのそばにいていいことばかりではなかった。それでもそばにいたかった。
けれど大人になるに従っていつまでもこのままでいられないんだと言うことに否が応でも気付かせられた。
もうふたりのそばにいることが辛いのにどうして離れさせてくれないの?
私はいつまでも涙を止めることができず布団を抱えて泣いた。
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