幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
「ひまり、本当にごめん」

乗りこむなり楓ちゃんは私の顔を見て謝ってきた。
そのままドライブにシフトレバーを入れると車は動き始めた。
行き先もわからぬまま車は夕暮れ時を走る。
いつもなら私が車の中で好きに話して、それを楓ちゃんが聞いていると言うことが多いけれど今日は何となく話すことが出てこない。空気が重たいと感じても何の話題も出せない。

「ひまり、ご飯は?」

「あ、うん。昼過ぎに軽く食べたくらい」

「そっか。なら一緒に食べよう」

楓ちゃんは決めてあったかのように滑らかに車を走らせるとお互い話すことなく目的地に向かった。

着いたところは目黒川沿いのお店。
以前私がテレビを見ながら話したことのあるオーガニックのレストランだった。
こんなところで食事がしてみたい、なんて少し前に話したことがあった。それを覚えていてくれたのか、偶然なのかはわからない。
食材にこだわって集められたものを最大限に生かしていると聞いた覚えがある。
また、ナチュラルな雰囲気の建物が目黒川に溶け込んでとても素敵だ。

「ひまり、こっちだよ」

そう言うといつかの時同じ、私の腰に手を回し店へと入った。
木曜日の今日、お店は割と空いているように見える。
店員さんは半個室になった席へと案内してくれた。
席に着くとメニューを見ていつもなら楽しく相談するけれど今日は何もかもいつものペースにならない。
楓ちゃんも同じなのか口数がいつもより少ない。

「おすすめコースっていうのでいいか?」

「うん……」

しばらくすると料理が並べられ、私たちはやっぱり口数少なく料理を口に運んだ。
おいしいはずの料理なのに味がわからない。
ふと視線を上げると窓の外には桜が満開だった。
あ、もうそんな時期?
最近仕事と家の往復ばかりで、ニュースでは桜の開花を聞いていたが見る余裕はなかったなと見つめていると楓ちゃんからの視線を感じた。

「綺麗だね」

何事もなかったように楓ちゃんに話しかけると私の目を見ながら頷いた。
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