幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
「ひまり、俺は昨日のあの男が嫌な訳じゃないんだ。お前が俺の知らない男と歩いていたことも笑い合っていたことが嫌だったんだ。陽太との約束より優先したと聞いて、どんなやつなのかと思ったらとても良さそうな男で、それがまた俺を苛立たせた」

「楓ちゃんの言っている意味が分からないよ。良さそうな人ならいいじゃない。そもそも私には私の世界があるの。だから2人が知らない人がいても仕方ないじゃない」

「それはそうなんだが……」

すっと視線を机に落とす楓ちゃんにイライラした。

「楓ちゃんたちだっていつも私の知らない女の子を連れて歩いてたでしょ? 何人もの子と付き合ってたのも知ってる。それなのに私が男の人といただけで責められるの?」

「いや、それは」

「いつもふたりが楽しそうに彼女と付き合ってきたのを知ってるよ。でも私は誰とも付き合わずに今まできたの。男の人と食事くらい行ったっていいじゃない。私には私の世界があるの。楓ちゃんたちが知らない世界がもうあるの。もうヤダ……」

私は話していて涙が込み上げてきてしまった。
ふたりは何人もの彼女が今までいたのに、私が初めて男の人と食事に行っただけで責められるなんて。
町屋さんとは付き合ってるわけじゃない。もちろんいい人だと思うけれどそれ以上の関係ではない。
ただ食事に行っただけで責められるなんて、とポロポロと涙がごぼれ落ちた。

「ひまり、違うんだ。その男に嫉妬したんだよ。良さそうな人だからこそ余計に焦ったんだ」

私がハンカチで顔を押さえていると向かいに座っていた楓ちゃんは手を伸ばし私の頭を撫でてきた。

「ひまりのことが大好きだから、その男に笑いかけていることが許せなかったんだ。今まで兄として妹を守る感じで好きなんだと思っていたんだ。けど最近ずっと考えていた。本当にそうなのかって」

頭に乗る手は大きくて優しい。
ゆっくりと撫でながら私に話しかける楓ちゃんはいつもと同じで安心感をくれる。

「俺は今まで彼女がいてもひまりのことを優先してしまうから何度も振られてきたよ。ごめん、それで彼女たちにあたられてたよな。俺はひまりが可愛くて仕方なくて、何よりも優先してきた。でもそれは妹としてではないんだ。ひまりが陽太と仲良くしてると聞いただけで嫉妬した。兄妹のように過ごしてきた陽太だろうとそんなことは関係なかった。陽太とふたりで連絡を取り合っていることも、ふたりでスノボに行くと聞いただけでもいてもたってもいられなくなった」

楓ちゃんの手が少し震えてる?
私は涙が引っ込んでしまったが顔を上げられずにいた。

「ひまりにとって俺は兄貴のままか? もしそうならこの話は一生もうしない。この関係を壊さないと約束する。今日話したことは忘れて欲しい」

楓ちゃんが息を飲むのがわかった。
すごく緊張してる。

私はどうしたい?

私もハンカチを握る手に力が入る。

「私も楓ちゃんが大好き。陽ちゃんへの好きと楓ちゃんへの好きは違うみたいなの。陽ちゃんはいいお兄ちゃんって感じなの。でも楓ちゃんは…楓ちゃんといるとドキドキするの」

「ひまり?」

「楓ちゃんが彼女といるのを見てずっと辛かった。でも幼馴染でいる以上私はずっと近くにいられるからって納得しようとしてた。女の子たちは選ばれた1人だけしか家族になれないけど私は一生そばにいられる近い存在だって。でも最近不安だった。楓ちゃんに家族ができたら私はどうなっちゃうんだろうって」

私はやっと顔を上げ楓ちゃんの顔を見た。
不安そうな顔をした楓ちゃんが目の前にいて困り顔で笑っていた。

「ひまりはそんなこと考えていたのか?」

「うん」

「俺にとってひまりは唯一無二の存在だってやっとわかった。他の男じゃなくて俺が守りたいんだ。俺の手で幸せにしたいんだ。ひまりも俺を男としてみてくれるか?」

力強い言葉に私の目からまた涙が溢れてきた。
私が頷くと陽ちゃんは立ち上がり隣の席に座った。私の手からハンカチを取ると涙を拭いてくれる。
そしてそのまま楓ちゃんは目元に唇を当ててきた。
涙を吸うように両目に唇が当たるとドキッとしてしまった。
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