幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
「ひまり、少し歩かないか?」

楓ちゃんは店の外に出ると指を絡ませてきた。
久しぶりに握る楓ちゃんの手はがっちりとした男の人の手になっていた。
私の思っていた楓ちゃんの手ではいつのまにかなくなっていた。
その手にドキドキさせられ、胸の奥が落ち着かない。

川沿いをふたりで歩きながら話すがまだぎこちない。

「俺はひまりを幸せにしたいんだ。俺と付き合って欲しい。新しい関係を始めたい」

「うん」

「ひまりは後悔しないか?」

楓ちゃんは今までの関係を壊すことを怖がっているように見える。

「楓ちゃんは? 後悔しない?」

私の質問に頷いた。

「後悔しない。このまま先に進まないことを後悔すると思う。それに今言わなければ後悔するから言いたい。ひまりのことを考えると胸が熱くなる。この歳になって恥ずかしいがひまりのことが恋しいって思う」

私は思わず楓ちゃんの手を振り解き抱きついた。

「楓ちゃんのことが大好きだよ」

楓ちゃんは私のことを抱きしめてくれた。
そして耳元で囁いた。

「ひまりを抱きしめたかった。もう止められない」

「私は生まれてからずっと楓ちゃんといるよ。これからもずっとそばにいられるんだよね?」

「もちろんだよ。ひまりは俺の腕の中から離さない。やっと、やっと手に入れた」

そういうと腕の力が強くなった。

「ひまり、愛してる」

そういうと抱きしめられていた手が緩み、顔を上げさせられる。
楓ちゃんと目があったと思った瞬間には唇が重なり合っていた。

今まで誰にも触れられたことのない唇。
楓ちゃんは私の唇の形を確認するように角度を変えてくる。初めてのことに戸惑い息ができない。

「楓ちゃん、苦しい」

「ふふ、ひまりはかわいいな。合間で呼吸するんだ」

そう言うとまたぎゅっと抱きしめてきた。
店を出た時にはライトアップが始まり、桜が照らされていた。

「楓ちゃん、綺麗だね」

「そうだな。良かった。桜が嫌いならずに済んだよ。実は今日仕事には行ったんだが、朝から何も手につかなくて。それで外に出たら近くの公園の桜が綺麗でひまりに見せてあげたいと思ったんだ。でもこれでひまりに振られてたら桜が嫌いになってたな」

「ふふ。なら好きなままだね。よかった」

私のことを引き寄せ密着しながら川沿いを歩き始めた。

「ひまり、改めてちゃんとデートしよう。待ち合わせして、夜景を見ながら食事をしよう。もう今までとは違うんだ」

「うん!」
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