ユメミルハチミツコ~意地悪上司と秘密の関係!?~
高倍率をふりきって入社した出版社は、珈琲と大嫌いなタバコの香りが漂っている。
あー、珈琲じゃなくてさくらんぼの紅茶が飲みたい。
なんてデスクについて大きなため息を吐き出しそうになった時。
「河上こころ!!」
「は、はいっ!!!」
急に名前を呼ばれるものだから、咄嗟に背筋を伸ばした。
相手は振り向かなくても分かる。
低くて破壊力のある声の持ち主。
同じ部署の先輩の、相馬さんだ――。
彼が叫べば、この部署全体が揺れてしまう……とは言い過ぎだけど。
私にとってはその位の威力がある。
「今朝お願いした書類の部数確認、今日の夕方までだけど、終わってるのか?」
黒ぶち眼鏡の向こうからのぞく、切れ長の瞳が向けられるから。
「えっ、と、まだで。その今からやるとこです」
「チェック入るから時間厳守な!」
「すみません……」
私は肩をすくめて小さくなるしかない。
会社という閉鎖的な建物は、実際に入ってみないと分からないとはいうものの。
憧れと現実が全然違うものだったと知るのは、入社3ヶ月で十分だった。