無理、俺にして
「……っ」


オリの髪につけられているヘアピン。
最初はこいつのことだからどうせまたふざけてるに決まってると思ってた。

……けど、違った。


聞こえてきた「おそろい」という言葉に反応して、オリの方を見れば。

俺の反応が予想通りで面白かったのか、
はたまた別の嫌味な理由か。

オリの口角は上がって、その表情は完全に挑発しているものだった。

昨日の廊下で、オリはゆめちゃんがつけているハチマキを手に取り、同じことを言っていた。

だから今の言葉と今の向けられている表情ですぐにそのヘアピンが誰のものなのか理解できた。


「……別に」


このままだと何かしてしまいそうで、いや、完全に自業自得なのでそんな権利もそもそもないんだけども。

とにかくオリの顔を見ていられなくて、ふいっと顔を逸らした。


……勝ち負けで例えるなら、間違いなく俺の負け。


昨日、練習を終えて帰ろうと教室を出ようとした時。
廊下の方から聞こえてきた、体育祭のジンクスに関する話。

またくだらない事を、なんて思っていられるほど、俺の気持ちは穏やかではなかった。


赤組の地獄のような練習中でも、しっかりと見えていた、好きな人の姿。
どんなにキツくても、好きな人のおかげでどんどん力が出てくる。
なによりかっこわるい姿は見せられない。

それなのに、その子の目に映っていたのは……俺ではなく、オリだった。


だから、そんなくだらないジンクスにすがりたくって。
それくらい、どうしようもないくらいに、俺の心にはもう余裕がなかった。


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