無理、俺にして
「さてはゆめちゃん、好きな人でもいるの?」

「!?」


思わず、進めていた足が止まって。
ゆめちゃんの、好きな人。


聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ち。

どうしたらいいか分からずに、すぐ後ろにいたオリを振り返ると、


「……さっさと行くぜよ。俺も行かねばならんところがあるにゃ」

「うわっ!?」


そう言って俺の背中を軽く押した。


……ああ、どこまで。

どこまで俺はかっこわるいんだろう。

自分の本心を隠して、相手の気持ちを勝手に決めて、
自分からそっと離れるオリの性格は心底面倒くさいと思っていた。

けどそれはちゃんと相手のことを考えているって事だし、
現にオリは俺の知らないゆめちゃんを確実に知っている。


一度だけ、オリはそのことについて俺に話そうとしたことがあった。

ゆめちゃんにいつも通りの元気が戻ってすぐだったと思う。

屋上で俺に言った、「協力関係」というやつに関してだと、そう言った。


けど俺は、なんだかそれが気にくわなくて、断った。


俺の知らないことを知っているのが。
手加減されているような気がしたことが。
俺じゃなくて、オリがゆめちゃんの協力相手に選ばれていたことが。


全部知っている顔をして

決まってすらいないのに勝手に勝った気になって。


……たかが幼なじみ、というだけで。


俺は、ゆめちゃんの何も知らない――……。

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