無理、俺にして
「――あっくん!!」


「っ!?」


はっとする。

下を向いてぐるぐると考えていたせいで、今何が起きているのか全然わかっていなくて。
呼ぶ声に反応してとっさに顔を上げると
息を切らし、膝に手をついたゆめちゃんが俺の目の前にいた。

もちろん何が起きているのか未だに分かっていない。


「来て、あっくん!!」


ゆめちゃんが借り物競走に出ることは知っていた、おかげで。
その台詞でなんとか状況を整理することはできた。


「え、俺……でいいの?」


そんな情けない台詞を吐く俺なんかお構いなしに、


「早くっ!!」

「え、おおっ!?」


俺の手をつかんで、無理矢理に引っ張るゆめちゃん。

何が起きてるのかまったく理解できなくて、それでも一緒にいられるのが嬉しくて。
二人で一気に走り、ゴールテープを切る。


「おおーっと!! 借り物競走ラスト、有終の美を飾ったのは青組だー!!」

「後半戦の青組の追い上げが楽しみですね!!」

「他の組も次いでゴールです!! 続いては三年女子の――」


「はあ、はあっ、あ、あっくんありがとう……おかげで、一位とれたよ……!!」


息を切らしながら、俺に笑顔を向けてくるゆめちゃん。


いつも隣にいるはずのオリは、今ここにいない。

いつも俺に向けられていても、すぐ隣に向けられる視線が、今はまっすぐ俺を捕まえている。

それだけでこんなにも嬉しくて
こみ上げてくるものをぐっとこらえて、俺も笑顔を返す。


きっと、俺史上ダントツで不細工な笑顔だった自信がある。



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