無理、俺にして
「驚いた。秋音を驚かせるつもりがまさかこんなに面白いことがあるとは」
私が届かないのを知ってか、両手を伸ばしてノートを高々と上げる。
く……っ、確かにこの高さは届かない……!!
「『夏祭りでうちわで隠しながらキス』」
「ぎゃあ!!」
「『見えそうで見えないところにキスマーク』」
「だああああっ!!」
折原紫乃は、面白がるようにノートに書かれたことを読み上げる。
そのたびに私の胸に槍が刺さったようなダメージが与えられた。
恥ずかしい。
誰にも見られたことなかったのに。
誰にも、見られたくなかったのに。
「お願い、します……」
やばい。
泣く。泣く。やばい。どうしよう。
「返してください……」
気付けば、折原紫乃のジャージの裾をギュッと握りしめて声を絞り出した。
「……これ全部、アンタの妄想?」
「……なんで折原くんに言わなきゃいけないのよ」