無理、俺にして
娘がいるのか。
絶対大変だろその子。


「私、こんなんだからさ。夫のことで情緒不安定になって、深夜に家飛び出したり、仕事場で1日過ごしたり、してて」

「何してんすか」

「でもね、うちの娘ってよくできた娘で、そんな私を見ても文句の一つも言わずにいてくれるの。自分でお弁当も作るし、勉強だってきちんとしててね」

「えらいすね。アンタと全然違う」


俺の言葉に口をとがらせたその人は、そんな本当のことズバッと言わないでよ、とジト目で俺を見る。


「でもね……私見ちゃったの」

「……」

「娘が、あの恋愛に興味のなかった娘が、少女漫画を買ってたの!!」

「……」

「いつか二人でうさぎの小屋に行って、娘の恋バナ聞いてみたいな~……」


うっとりした表情。
俺は、疑問を素直に投げかけた。


「なんでしないの?」


――ピシッ……

なにやら石化するような音。のあとに。


「……恋の相談相手になるより先に、ちゃんと母親しなくちゃ、ね」

「……」


長い髪を耳にかけながら、彼女はそう言って笑った。
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