無理、俺にして
あいつ、用事はだいじょうぶなんかな。
いつも一緒に帰っているのに、今日は用事があるとかで帰れないと言われていたんだった。
「あ」
そういえば。
秋音とその担任の会話で思い出した。
俺、今の今までジャージだった。
今朝の池ポチャ事件で濡れた制服を保健室で乾かしてもらっているのをすっかり忘れていた。
このまま秋音を待って、一緒に保健室に向かおう、そうしよう。
ただ普通に登場するのでは面白くないと思い、窓を開けて秋音のいる隣のクラスの方を見た。
「ふむ」
ちっと細いが、足場が隣のクラスまで続いている。
俺の類い稀なる身体能力なら行けんこともなかろう。
さっきの会話の流れからして、もうすぐ秋音も教室に戻ってくる頃だろう。
担任に説教くらっていたのをからかうのも面白そうだ。
「よ、っと」
窓に身を乗り出し、そのまま立ち上がる。
体を反転させ、少しずつ足を進めた。
外では運動部が練習に取り組んでいる。誰も俺には気付かない。