龍臣先輩は今日も意地悪
「帰ろ、咲結」
「…はい」
みんな見慣れたのか私と龍臣先輩が一緒に帰ることにも特に何も反応を示さなかった。
私が警戒しすぎていただけで、世界は案外優しかったりするのかもしれない。
「楽しかった?初めての体育祭」
「たのしかったです」
「よかったー、来年はもう俺いないからね」
最初で最後の一緒に出れる学校行事だったのか、と思うと胸がツキンと痛んだ。
文化祭は終わってしまっているし、もうこの後3年生は受験に向けて忙しくなるだけ。
私たち二年生の修学旅行を除き今年の学校行事はすべて終わってしまった。
「咲結のハチマキのおかげで頑張れた、これ勝利のお守りだな。受験まで持ってたいくらい」
龍臣先輩は制服のポケットから私のハチマキを出して空にかざした。
そんな先輩にバレないように、私もスカートの上からポケットの中のハチマキをなでる。
「…持ってていいですよ」
ついぽろっと口から出てしまった。
「え?なんて言った?」
「……っなんでもないです」
「嘘つき」
視線をそらすとグイっと腕を引っ張られて龍臣先輩と目が合う。
「持ってていいの?やじゃないの?ハチマキ交換する意味知らないの?」
「…っ」
“ 好きな人とハチマキを交換すると結ばれる ” 。
こんなありきたりなジンクスだけど、私たちの学校で知らない人はいないだろう。
毎年みんな交換しようと必死で体育祭前はその話ばかりなんだから。
「ふは、顔赤」
そんな指摘をされて余計恥ずかしくなる。
顔が熱いんだから、赤いのなんてわかってるのに指摘されるともっと恥ずかしい。
「駄目だよそんな顔しちゃ。俺バカだから期待しちゃうから」
「…っ」
声が出なかった。
真っ赤な顔で口パクパクして、絶対間抜けな顔してる。
人生ではじめて男の人に慣れていない自分を恨んだ。