龍臣先輩は今日も意地悪
遥輝はおしとやかな女の子が好きって言ってたから尚更どっちかわからないけど。
…少なくとも浮気をできるくらいは強かで、か弱い女の子ではないことは確かだ。
「あいつらの話は終わりー。それより俺今日かっこよかった?リレー見ててって言ったでしょ」
色別対抗リレーでアンカーを務めた龍臣先輩。
レースの前に偶然召集場所であったときにそんなことを言われたんだっけ。
…もちろんばっちり見てたし、悔しいくらいにはカッコよかったけど。
バトンが回ってきたとき3位だったのに他の団をごぼう抜きして、おまけに大差までつけて1位でゴールした龍臣先輩。
あの姿はまさに漫画に出てくるヒーローだった。
きっと今日でファンの数ももっと増えただろう。
「まあ咲結がかっこいいなんて言ってくれるわけないんだけどね」
俺はもうわかってる、なんて龍臣先輩は悟りを開いたようにな笑顔を見せた。
『送ってもらうんでしょ?たまには素直になるんだぞツンデレ娘!』
なんて、帰り際の麻里奈の一言が頭をよぎる。
「ついたよ咲結、風邪ひくから早く中はいんな」
「…はい」
「どした、ゆでだこみたいな顔して」
言ってしまおうか、このまま逃げるように家に入ろうか。
悩んだ末に私がとった行動は…
「送ってくれてありがとうございました。……っこよかったです、ちゃんと。おやすみなさい!」
言い逃げ。
言葉通り、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言って逃げるようにドアを閉めた。
もちろん龍臣先輩がどんな顔してどう思ってたのかなんて知るわけもない。
_この日が人生で初めてよく眠れなかった夜だった。