龍臣先輩は今日も意地悪
「食べ終わった?俺らも行こっか。もう外暗くなるし」
「そうですね、お会計行きましょうか」
私はテーブルに置いてあった伝票を持ってたちあがる。
と、手からパッと伝票が奪われて。
「奢るって、言ったでしょ?」
なんて、にっと笑った。
ほんと、ずるい男だ。
校内に大量のファンがいるのも納得してしまう。
「ごちそうさまです、龍臣先輩」
「惚れた?」
「……ちょっと見直したところだったんですけど、今ので元に戻りました」
「はは、きびしーい」
スムーズにお会計を済ませた龍臣先輩は、ご丁寧に店員さんに「ごちそうさまです」と微笑んで外に出た。
『付き合うなら店員さんとかにも気を使える人がいいな』
『何急に、どうしちゃったの』
『飲食店でバイトしてたからさ、わかるんだよね。ごちそうさまとかありがとうとか、言ってもらえるだけで嬉しいんだよ』
以前、私は麻里奈にそんなことを言っていた。
もちろん本心。
でも、遥輝はそれができない人だった。
むしろ、『料理おっせえな』とか『この店あんまうまくない』とか言っちゃうタイプ。
でも、好きだったから何も言わなかった。
そんなこと言っちゃだめだよって、言う勇気はなかったから。
喧嘩になるのは嫌だったから。