龍臣先輩は今日も意地悪
「ねぇ遥輝……水森恋奈先輩と浮気、してるんでしょ?」
「…っ、咲結」
ベンチから立ち上がり、私の手を掴もうとした遥輝。
でもその手は私に触れることはなかった。
思いとどまったように空中で風を掴んだ。
私の腕の、わずか数十センチ手前。
「ごめん、咲結」
「……本当はね、見て見ぬふりするつもりだった。
だって、遥輝が浮気したのは私のせいでしょ?」
泣くな。泣くな。笑え。
ここで泣いたら、きっと言いたいことは何も言えない。
「咲結…?」
「遥輝のこと、不安にさせてたもんね。
『俺のこと好きじゃないでしょ?』って遥輝に言われてやっと気づいたんだ。私は遥輝に何もしてあげれてないって。
私ばかり幸せな思いさせてもらって、遥輝には好きって気持ち、伝わってなかったよね」
思えば、付き合ってから一度も私から好きと言ったことがないと思う。
好きだったけど、好きと口にするのは恥ずかしくて。
その恥じらいが遥輝を不安にさせてるなんて、私は気づいていなかった。