龍臣先輩は今日も意地悪
やっぱ、なにも聞かないんだ。
噂って言っても、『別れたらしい』とか『咲結ちゃんがフラれたらしい』程度。
フラれたわけじゃないけど、私があれだけ目を腫らしていたならそう思うだろう。
原因は一切知れ渡っていない。
浮気云々も知ってるのに、聞いてこないのはたぶん龍臣先輩なりのやさしさ。
「こんなこと言っていいのか分からないですけど、龍臣先輩はなんで別れないんですか?」
「…なんでだと思う?」
「…さあ」
龍臣先輩くらい肝の座ってる人なら別れるなんて容易いだろう。
私みたいに勇気が出ないなんてことはないし、なおさら不思議。
「ま、これで咲結フリーになったことだし?これからはもうちょい堂々とイチャイチャできるね」
「え、しませんよ。先輩のファン怖そうだし。第一先輩はまだ別れてないんだから…」
ぎゅ
「別れたらイチャイチャしてくれんの?」
不意に後ろから握られた左手。
その言葉の意図は、不明。
「ふざけてないで、はやく終わらせましょう」
「…そーだね」