龍臣先輩は今日も意地悪
「龍臣先輩?」
非常階段。
そんなものがこんなところにあるなんて知らなかった。
まあないことはないのだろうけど、使ったこともなければ鍵が開いているなんて思わないだろう。
校舎の端、重たそうな銀の鉄製の扉はギイと音を立てて開いた。
「…あぁ、咲結か」
龍臣先輩は踊り場に腕をついて黄昏ていた。
高いところ特有の強い風で私の髪がなびき、うっとおしくて耳にかける。
強風で前髪が目にかかった龍臣先輩の表情は読めない。
でも、いつもよりテンションが低いことは目に見て分かった。
「よくこの場所分かったね。教えたっけ」
「霧崎先輩が…」
「あー、蒼斗か。いいでしょここ。俺の秘密基地」
「…公共の場ですよね」
「そう。基本鍵あけっぱだから穴場だよ。授業さぼるときとかね」
龍臣先輩はこっちを見なかった。
その背中はやはりいつもの龍臣先輩の背中には見えなくて。