龍臣先輩は今日も意地悪
「なあ、もう誰とも付き合わないの?」
「…わかんないかな、いまのところ」
次、なんてまだ考えられない。
私はこの間まで遥輝の彼女だった。
私の世界に、たったひとりの彼氏だった。
彼氏=遥輝。
この式はまだ頭に残ってしまっている。
「ねえ安堂くん」
「ん?」
「恋人って、なんだろうね」
「…ほう、随分と哲学的な質問だな有明クン」
ぽつりとつぶやくと安堂くんは一瞬ぽかんとしてまたおちゃらけた。
なにを言いたいのって感じだろうな。
私もわかんない。
でも、恋人ってなんなんだろう。そう思うんだ。
「…結構重症?有明」
「どうだろう。病んでるわけじゃないけど、空っぽに近いって感じかな」
独りになると考えてしまう。
たとえば夜、暗い部屋のベッドに寝ているとき。
浮気されたんだなあ、とか。
付き合ったばかりの頃はこの時間は毎日電話してたのに、とか。
彼の気持ちが“好き”じゃなくなったのはいつだったんだろう、とか。
考えても仕方ないのに。
これを未練と呼ぶのだろうか。
…いや、ちょっと違うか。もう好きではないんだもん。
「なんだろうな、恋人って。俺もよくわかんねえや」
安堂くんは重たい空気を取り払うように大きく伸びをした。