慶ちゃんが抱いてくれない!
「申し訳ございません。本日満室となっております」
「え……」
そうか……今日は元旦でサービス業以外の全国民の大半は休みだ。
他に寝泊まり出来るところと行ったらネットカフェ……は、使った事ないような場所で寝泊まり出来ないし、カラオケは武蔵君と一緒なら行けるけど流石に一人で行く勇気はない。ドア半分透けてるから眠れないし。
そうだ……
私はホテルのフロントスタッフの目をジッと見た。
「お客様?いかがなさいま……?」
200歳を越えた辺りから、多少の事で短い時間であれば魔力で誘導くらいなら出来るようになっていた。
だから予約を空ける事だって……
「どうしても……無理でしょうか?」
「……少々お待ちください」
その時、私の後ろを家族連れが通り掛かった。
「パパとお泊り~!」
「パパとお泊り出来るのずっと楽しみにしてたもんね」
「ごめんな、いつも出張でなかなか時間作ってやれてないもんな」
そんな会話が聞こえて武蔵君との約束を思い出してハッとした。
「あのっ!ごめんなさい!やっぱりなんでもありませんっ」
私は魔力を押さえて急いでその場から離れた。
本当……私自分の事しか考えてない……最悪。
魔力が使える様になって暮らしていく中で、犯罪になるような事はしたことはなかったければ多少ズルして自分の都合の良いようにしてきた事は何度もあった。
でも、武蔵君に怒られて人の事を考えない自分がしてきたズルがすごく恥ずかしかった。
武蔵君にはそんな恥ずかしい姿を見せてしまって、他にも格好悪いところも沢山見られてしまってそれでも好きでいてくれる人なんてもうこれから現れないだろう……
武蔵君とはもう会う事も想う事もなくなるけど、ズルい事はもう絶対しない。
元旦である今日は何をしようと思っても都合が悪い。
今日のところは家に帰ろう。
……もう暗いし、流石にあの三人も待ち伏せしてたりしないよね?
一応スマホの電源を入れて連絡がないか確かめる。
真穂からの電話の後すぐに一回武蔵君から電話があったみたいだけど……え?誰からもメッセージとかないの?慶次君からも何もないし、武蔵君からの電話も一回だけ?
三人を警戒しながらこっそり家に戻ったけど、誰も待ち伏せしてないし、すんなり家の中に入れた。
一応戻って来てない様に見せる為、電気は消したままにしておこう……って、それ必要あるのかしら?
三人の前から姿消す事を決めたくせに、三人が思っていた以上に自分の事探してる形跡がなくて……寂しくなんかないんだから……どうせもう会わないし……。
真穂と沢山恋バナしてあんなに友情育んだと思ってたのに1回電話出なかっただけでもう連絡よこさなくなるなんて!
慶次君も事故とはいえ、乙女の唇奪ったのよ!?何か言って来なさいよ!
一番信じられないのは武蔵君だよ!
あんなグイグイ来てたくせに!仮だけど彼氏のくせに!自分より先に弟と私がキスしたのよ!?電話通じないならメッセージで何か言って来なさいよ!
はぁ……私が思ってたよりもみんな私の事なんてどうでも良かったのかな。
最短で引っ越しいつから出来るんだろう?
明日の朝早くに10年前に住んでた埼玉見に行ってみよう。
1日歩き回ってたから疲れちゃった……ウトウトしてきた。
朝起きたら慶次君の事好きになってるのかな……
ソファに寄りかかって瞼を閉じた。