慶ちゃんが抱いてくれない!
ガチャッガチャッ……
ブランケットに包まって眠りかけていると玄関の方から鍵穴をいじってる音がして一気に目が覚める。
え……?うちの玄関?
その時、ふと年末年始は泥棒が多いというニュースを思い出した。
そうだ……居留守使おうと思ってメーター回らない様に電気系統一切点けてないから泥棒が留守だと思ってるのかもしれない!
どうしよう……人を撃退出来るような魔法薬は存在するけど、今すぐ用意出来ない。魔力も不審者をどうにか出来る様な事は出来ないし、不審者に腕力で敵う気がしない。
最近の日本は治安良いしマンションのセキュリティも強化されてるから自己防衛が甘くなっていた。
やだ……怖い……そうだ、武蔵君に……
ガチャンッ!
玄関の鍵が開く音がして、誰かが中に入ってくる。
怖くて、ソファから落ちて壁に向かって後ずさりする。
「ひ、ひっ!人います!!!出てってくださいっ!!!通報します!!!入って来ないでっ!!!」
私は必死にブランケットを入ってくる人に向かって投げつけた。
「楓ちゃんっ!落ち着いて?俺だよ、武蔵!わかる?」
「え……武蔵君……?」
パチッ
部屋の電気が点いて、目の前にいたのは武蔵君だった。
「はぁ……武蔵君かぁ……良かっ……って!良くない!何で入って来てるの!?」
「何でって!仮だけど付き合い始めてすぐに合鍵くれたじゃん、使う機会なかったから今まで使った事なかったけど……」
そういえば……マンガやドラマでカップルが家の合鍵持ってるシチュエーションに憧れてて武蔵君に合鍵渡したわ……。
武蔵君が真穂や慶次君がいない時に家に来る事なくて使ってなかったからすっかり忘れてた。
茫然としていると武蔵君は腰を抜かしている私の前に座って私の頭をポンポンと撫でた。
「驚かしてごめんね、連絡したらまた逃げちゃうと思ってさ」
「……」
「楓ちゃんってさ、本当ウッカリしてるよね。思った以上に抜けてるし……そこも可愛いんだけどさ」
「ちょっとっ!年上をからかわないでよ!わ、私……武蔵君の事もう好きじゃな……すぐ好きじゃなくなるから……あの……別れ……」
う……まだ武蔵君の事好きなのに、嘘でも武蔵君の事好きじゃないとか別れたいとか言うのが辛い……。
「楓ちゃん、ちょっと一回落ち着こうか?一つ一つちゃんと確認しよう?まずさ、楓ちゃんに掛かってる呪い……慶次とキスしてちゃんと解けたか見た?」
「え?」
私は横を向いて部屋に置いてある姿見で自分の目を確認する。
あ……まだ呪われた色……
男に騙されて呪われてしまった憎らしい瞳の色は元に戻っていなかった。
「嘘……解けてな……そうだ、解けるのに多少時間掛かるのかも……」
「突然キスしちゃって動揺してるでしょ?相手は真穂の彼氏だし」
「そ、そんな事……キスくらいで動揺するお子様じゃないわ」
「本当に?」
「当たり前じゃなっ……んっ!?」
むきになってそう言った瞬間に武蔵君と唇が重なっていた……。
驚いて武蔵君を押して唇を離した。
「ちょっ!なっ何するの!?急に!!」
私は自分の唇を手で覆った。
わああああ!!武蔵君にキスされた!?
顔が熱い……絶対顔真っ赤になってる……恥ずかしい!最悪!
「もう一回確認してみて」
「へ……?」
もう一度姿見を見ると……私の瞳の色はあの忌まわしい紫色から99年ぶりに茶色の瞳に戻っていた。