慶ちゃんが抱いてくれない!
「慶次!俺の声聞いて!凄くない?」
「は?……ん?あれ?声どうしたんだよ?いつもと違うぞ!」
「慶次の声だよ!」
「俺、こんな声してんのか!っていうか、何でそんな事出来るんだ?あれか?ボイスチェンジャー?マイクでも何処かに仕込んでるのか?」
「違うよ!真穂の上級魔法薬!上手くいってさ!上手くいった御褒美に慶次の声で言って欲しい事言ってあげてたんだ」
武蔵君…慶ちゃんが勘違いしないように、ちゃんと説明してくれた!
でも…
「武蔵君っ!慶ちゃんの声で何言ってたかバレたら怒られちゃうから言っちゃ駄目!」
「ふーん…俺の声で勝手になぁ?」
「そ、そこまで… 変な事言ってもらってないよ?…多分」
「土曜のスイーツビュッフェ中止な」
「えぇ!?ごめんなさい!おひとり様でビュッフェなんて寂しいよ!」
「……俺が行かなくても一人で行くのかよ」
「だって抽選予約当てたの私だもんっ」
今週の土曜日は何度も応募してやっと抽選予約に当選した大人気のスイーツビュッフェに行く予定だった。
スイーツビュッフェに行けるだけでも嬉しかったけど、慶ちゃんと行けるというのも相まってすごく楽しみにしていた。
「慶次、俺が魔法薬作ってみたくて提案した事だから許してやってよ」
帰り道で何度も慶ちゃんに謝っていると、武蔵君が笑いながらそう言った。
「くだらねぇ事提案してんじゃねぇよ!俺が兄貴の手伝いしてご褒美もらった事なんか一度もないぞ!兄貴はいつも真穂に甘いんだよ!」
「だって、可愛い妹みたいなもんだしさぁ。じゃあ、俺のせいで真穂が楽しみにしてたスイーツビュッフェ中止になるのは可哀想だから土曜日慶次が行かなくても俺が連れて行ってあげるよ」
「え?本当?武蔵君、甘いの苦手じゃなかったっけ?」
「スイーツビュッフェでも、甘くない物も置いてあるから平気だよ」
「それなら良かったぁ」
慶ちゃんが行かないなら楽しみは半分になっちゃうけど……
「……良かったじゃねぇよ!おまッ……あー!もういい。二人で勝手に行ってろ」
慶ちゃんは怒って早歩きで先に行ってしまった。
「あれ…慶ちゃんまた怒っちゃった!」
すると、武蔵君は笑った。
「真穂、慶次の事頑張るんじゃなかったの?」
「え?」
「二人で出掛けるなんて胸キュンイベント作るチャンスだったじゃん?」
「あ!そうか!どうしよう!私、ビュッフェの事ばっかり考えてた…」
「ふっ…真穂の事だからそんな事だろうと思った。一緒に行ってくれると思うから大丈夫だよ」
「そうかな…?」
「うん、あれ拗ねてるだけだしね」
「慶ちゃんの声勝手に使ったの怒ったんじゃなくて?」
「真穂が他の男と出掛けるのが気に入らないんだと思うよ」
「他の男って武蔵君だよ?それに慶ちゃんずっと私の事振ってるのに……」
「ふっ……男って勝手なもんでさ。ずっと自分に好き好き言ってた女の子が自分以外の男と楽しそうにしてると嫉妬するもんだよ」
きっと…慶ちゃんとの事が上手くいかないのは私が恋愛偏差値が低過ぎるんだ…。
私の初恋は慶ちゃんで…ずっと慶ちゃんだけだったからこればかりは経験の積みようがないから男心ちゃんと勉強しなくちゃ。