慶ちゃんが抱いてくれない!
修学旅行の夜 ~楓side~
まさかここにきて私が他の魔女と仲良くなるなんて思いもしなかった。
50年ぶりに高校生になったのには訳があって、ちょっと男子高校生と遊ぶことはあっても誰ともつるむつもりはなかったんだけどな。
つい楽しくて、居心地が良くて真穂と武蔵君と慶次君の三人で仲良くする事になっちゃったから本来の目的が果たせそうになくなってしまった。
私にも時間がないけど、真穂と慶次君が無事に付き合うまでは見守ってあげよう。
あの二人なら時間の問題だとは思うけど……。
真穂はどう思ってるかわからないけど、私は魔女に生まれた事を不運だと思っている。
そんな不運の中でも18歳までに魔力を使わなくても相思相愛になれてあんなに想ってくれる人に出会える魔女なんてきっと一握りしかいない。
それはすごく羨ましい事でもっと前だったら妬ましかったかもしれない。
こんな長く生きてたって私はあんなに純粋に愛してくれた人はいなかったから。
だからこそなのかな?
魔女に対してそんな人がいるのであればその人と上手くいって欲しいと思った。
真穂のおばあちゃんは海外に行ってから帰って来ないって言っていたけど、多分もう……
慶次君に掛かっていたモテる呪いはかなり手が込んでいて複雑な呪いで私ではどうする事も出来ないレベルだ。
真穂が大きくなる頃には自分がいない事がわかっていたんだと思う。
だから呪いを残したんだ。
他の魔女の事情なんてどうでもいいんだけどね。
でも、3人の前で目的を果たすのは……ちょっと気が引けるし、3学期が終わる時に他の学校に転校しよう。
人間は早く死んでしまうから……永遠に別れるのが辛くて100年くらい前から誰かと仲良くするのは避けて来た。
折角久しぶりに仲良くなったのに別れるの惜しいな……特に……
急に武蔵君の事が頭を過った。
……いやいやいや!ないでしょ!何歳年下だと思ってんの?
真穂と慶次君の事一緒に応援してるから二人でいる時間がちょっと多いだけだし。
意識なんかしてない。
「楓ちゃんっ!このコーヒー牛乳飲んでいいんだってー!掃除してたおばちゃんがくれた!」
お風呂から上がって服に着替えていると真穂が嬉しそうにコーヒー牛乳を持って来た。
「ありがとう……」
「そっちのベンチで一緒に飲もー」
「うん」
……真穂が可愛がられるのよくわかるわ。
真穂にもらったコーヒー牛乳を一緒に飲んで部屋に戻ろうとした時だ。
スマホが鳴った。
私に連絡が来るのは真穂か武蔵君だけ……つまり武蔵君だ!
スマホのメッセージを開くと電話出来るかとの事だった。
「真穂……先部屋戻ってて。ちょっと急用で電話してくる」
「あ、うん?わかったー」
私は急いで電話が出来そうなホテルのバルコニーに向かった。