慶ちゃんが抱いてくれない!
映画館のフロアに着くと案の定人がごちゃごちゃしていた。
「なにこれ、混み過ぎじゃない?」
「土日はこんなもんだよ、とりあえず券売機のところに行こう」
「ちょっと待っ……わっ」
楓ちゃんが入場が開始されて動き出した人の流れに流されそうになっていて、はぐれないように肩に腕を回して自分の方に引き寄せて券売機に向かって歩いた。
そして何とか券売機にたどり着いた。
ネットで既に予約している人が多いのか券売機のところは割と空いている。
「何見たい?」
「武蔵君見たいのない?」
「楓ちゃんが見たいやつ見たい」
「えぇ?最近の映画あんまり知らないんだよね……あ!30年前見たアニメ映画と同じやつやってる!」
楓ちゃんってアニメ映画とか見るんだ。可愛いな……。
30年前の時は誰と見に行ったんだろ……いや、そんな前に見に行った人に嫉妬とか……
「あぁ、これ今でも人気で昔のをリメイクしたやつだね。俺もこれ気になってた。これ見る?」
「そうなんだ!絵が綺麗になってるね、これ見たいな」
「じゃあ、チケット買おう」
画面を押して空いてる上映時間を見ると……
「……これって19時の上映しか空いてないって事?」
「そうみたい……」
今昼前で映画に行く予定しか立ててない……
「そしたらほら、無理に座って見なくても今上映してる途中から立ち見で入って次の回で見たところまで見たらいいじゃない」
「うん?途中から立ち見?立ち見席なんてないし、途中からも入れないよ?」
「そうなの!?いつからそんなシステムに……」
「19時の上映に見るか、それか違うの見る?」
「……機械だとな……窓口でチケット買えないかな……」
楓ちゃんは悩みながら小さい声でぶつぶつと何かを呟いている。
「やーん!チケット取っておいてくれたのぉ~!?うれしいぃ!」
「当たり前だろぉ?カップルシート取っておきました~」
そんな会話をしながら通り過ぎるカップルを楓ちゃんが見ていて何かを思いついた様な顔をした。