慶ちゃんが抱いてくれない!



「すみません」

「え?何すか?」

「これ、落としましたよ」



楓ちゃんは急にそのカップルに声を掛けて自分のハンカチを差し出した。


???



「えー?私のじゃな……」



カップルが楓ちゃんを見ると目がうつろになってる……?はっ!



俺は急いで楓ちゃんの目を手で覆って自分の方に引き寄せた。



「すいません!なんでもないです!早く行ってください!」

「……え、何こいつ~!きっもー!行こ!」



カップル達はさっさと何処かに行った。



「ちょっと!何すんの?折角っ」

「楓ちゃん……19時からの上映と他の見るのとどっちが良い?」



俺は楓ちゃんの手を掴んで目をジッと見て声を低くしてもう一度聞いた。



「えっと……う……19時からの……」

「俺が買うから何もしないで。そこで待ってて」

「……はい」


19時から上映のチケットを買って楓ちゃんの方を向くと、俯いて落ち込んでいるのが分かりやすいくらいにわかる……。


なんか……俺がすごい悪い事したような気持ちになる……チケットを何とかしようとしてくれてたのはわかるけどさ!


「……19時からの席もそんな悪くないと思うよ」

「あ、うん……ありがとう……お金、武蔵君の分も払うね」

「いいよ、今日誘ったの俺だし、バイトしてるから自分で稼いだお金だし出させて?えーっと……とりあえずお昼ご飯でも食べ行こう?何食べたい?」

「うん……あの……ごめんね!お昼は私がご馳走するから!武蔵君が食べたい物なんでも、いくらでも言ってっ」



楓ちゃんはそう言って俺のコートをキュッと掴んだ。


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