唯くん、大丈夫?
都内某所。
今日も独特の空気の中でバイトが始まる。
俺はバイトが始まると、
アイツのことばかり考える癖がついていた。
「…いいよ、ユイ。すごくいい!」
ヒゲのおっさんが興奮した様子で声を上げる。
何度会ってもキモいな。
眩しいスポットライトの下、
バシャバシャと大袈裟に鳴るシャッターの音。
真っ白な壁紙の前、一脚だけ置かれた椅子に片膝を立てて脱力する俺は、
レンズを見下ろすように見る。
「今度目線、斜め横に向けて…そうそう、顔の角度そのままでもう一回こっち見てみようか。…あーいいね!すごくかっこいいよ!」
俺は今、
言われるがまま表情や体を動かすだけの、簡単なお仕事をしている。
「カメラをまっすぐ見て…あー、いいね!最高!エクセレント!じゃあ次はもうちょっとアンニュイな感じ出してみようか!」
…アンニュイ?
わかんねー、何言ってんだこのおっさん。
「…そーうそうそう、その表情!いいね!よーし、次パターン変えよう!」
…いいんかい。
心の中でツッコミを入れる間に、スタッフが次々やってきて髪をいじったり服や小物を変えていく。
ものすごいスピード感で仕事をしたスタッフたちが持ち場に戻ると、カメラマンがハキハキとした大きな声をスタジオ内に轟かせる。