唯くん、大丈夫?
とうとう唯くんが私を壁に追いやって、私の顔の横に腕をそっと置いて囁いた。



「……なんだと思う?」



いつかの夏の、唯くんの部屋でのことが瞬時に蘇って一気に顔が熱くなる。



「あー…」



唯くんが私の肩にポスッと頭をもたれさせる。

肌に触れる唯くんの髪や吐息に、全身がザワザワとする。



「腹減った」

「へ」



突然の『腹減った』に、拍子抜けする。

安心したような、ちょっと残念なような。

でも唯くんらしいな、と思ってつい笑みがこぼれる。



「なんか食べる?」

「…うん」


家になんかあったかな…と頭を巡らせていると、

頭を持ち上げて私を見た唯くんが、顔を傾けたまま、は、と口を開いた。


「!」





ちゅ、と音を立てて唇を離した唯くんが、じわじわと赤くなっていく私の顔を嬉しそうに眺める。


「…たっぷり4年分、食べさせてもらう」

「え…!?」


至近距離で見る唯くんの顔は、やっぱりCGみたいに綺麗に整っていて



「…逃げんなよ、ちんちくりん」



駅の窓から差し込むキラキラした光に包まれながらそう意地悪く笑って言うから

やっぱり私、映画の中に入っちゃったんだと確信した。










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