今日から君の専属マネージャー
「それにしても、涼也が風邪なんて珍しいな。体調管理は徹底してるのに」
「それはたぶん、私のせいだよ」
「え? なんで?」
私は昨日の出来事を楓君に話した。
「それで風邪をひいたということか。てか、そもそも吉田さんってどうしたの?」
その質問に、私は再び丁寧に答えた。
どちらも自分の恥さらしをしているようで、話していて情けなくなる。
「ふーん。なるほど。
どおりで最近家にいないなと思ったら、美鈴ちゃんと同棲してたんだ」
「ど、同棲って……」
「うらやましいなあ、こんなかわいい子と一緒に暮らせて」
「いいことなんて、ひとつもないよ。実際私、今もこうして迷惑かけてるし。
私何やってもダメダメで。
自分のこともまともにできないやつが、他人のマネージャーしてるなんて笑っちゃうよね。
それでも涼ちゃんは懲りはずに、仕事のフォローしてくれたり、帰ってから夏休みの課題手伝ってくれたり、いつも優しくしてくれて。
それなのに、私は迷惑ばっかりかけて。
ほんと、名前だけの役立たずなマネージャー」
そう言っていると、また涙がぶわりと瞳を覆った。
涼ちゃんはこんなに頑張っているのに、何も変われていない自分が嫌になる。
初めて会ったあの日から、私は何も変わらない。
大遅刻をしたあの日から、私はちっとも成長していない。
涼ちゃんの役に立ちたいのに。
堂々と、涼ちゃんの隣に立っていたいのに。
「そうでもないんじゃない?」
「……え?」
「ちゃんと役に立ってるよ、美鈴ちゃんは」
楓君の優しい気づかいに、涙があふれそうになる。
その慰めも、軽い気持ちで言っているのだろうか。
根拠のない、無責任な慰めなのだろうか。
「慰めてくれてありがとう」
「べつに慰めてるわけじゃないよ。美鈴ちゃんは十分、涼也の役に立ってるよ」
「そうかなあ……」
「うーん……。その仕事にあえて名前を付けるなら……「癒し」、かな」
「癒し?」
「涼也、いつも気張ってるからさ。
そういうダメダメな感じの美鈴ちゃん見て、癒されてたと思うよ。
危なっかしい美鈴ちゃんを、俺が守らなきゃって思ってるよ」
「そ、そうかなあ?」
「だって、見てたらわかるじゃん。どう見ても涼也は美鈴ちゃんのこと……」
「楓っ」
楓君の言葉を、涼ちゃんの厳しい声が突然制した。
その声に、私の体までびくりと震えた。
「あれ? 起きてた?」
「余計な事言うな」
「言ってないよ。本当のこと言ってるだけ」
「それが余計なことなんだよ」
「はいはい。お前もちょっとは休んだ方がいいよ。じゃあ美鈴ちゃん、俺帰るわ」
「え? 帰るの?」
「うん。って言っても、この上だしね。なんかあったら連絡して」
「う、うん。わかった。ありがとう」