今日から君の専属マネージャー

撮影直後にこの写真を見たときは、高揚感があった。

ドキドキしていた。

達成感があった。

だけど、今この写真を見ていると、なぜだか切なさがこみあげてくる。

そんな気持ちしか、ない。

最後まで見終わって冊子を表紙に戻してから、楓君に返した。


「うん、大丈夫。わざわざ見せに来てくれてありがとう」

「いえいえ、こちらこそ。突然押しかけてごめんね。

 それと実は、もうひとつ見てほしいものがあって……」


そう言いながら楓君は鞄から、先ほどの冊子と同じくらいの厚みの冊子をもう一部出した。

表紙は先ほどのものと変わらない。

だけど冊子の途中に、付箋が挟まれてあるのを見つけた。

「ここからなんだけど……」と楓君は付箋のページをめくってくれた。

そこには、私の後ろ姿ではなく、思いっきり顔を出した写真ばかりが集められていた。

楓君と楽しそうに戯れるような場面、自然な表情、リラックスした雰囲気。

あの日の記憶が、そのままここから飛び出してきそうな、そんな写真だった。

そしてそこにいるのが自分とは思えないほど、きらきらと輝いていた。

めくるたびに、指先が震えた。

ページ自体に装飾や効果が施されたからだろうか。

だけどその効果が、一層私の胸に何かを訴えかける。


「やっぱり、顔出しダメかな?

 メーカーの広報担当者もこっちでいきたいって言ってるんだよね。

 そうなった場合は、美鈴ちゃんにも今後のプロモーション撮影や、PRイベントにも参加してもらうことになるんだけど」


写真に目を落としたまま楓君の話を聞いていた。

その話を聞いているうちに、胸がどくどくと高鳴りだす。


「俺ももったいないなって思うんだよね。

 こんなにかわいく撮れたのにみんなに見てもらえないなんてさ。

 俺結構好きだよ、この写真。

 モデルが宣伝物より注目されたらダメなんだけど、見ている人を引き付けるというか。

 商品のイメージともあってると思うし」


「そんなのは買いかぶりすぎだよ。

 私なんかの顔が出なくても、後ろ姿でも十分それは伝わると思うし。

 写真の撮り方が上手いから」


「それは確かにそうなんだけど。

 でも、美鈴ちゃんにしかできないことだってあるから、こういう作品ができたんだよ。

 君の表情や仕草は、人を引き付ける力があるから、写真にも作品にもそれがあふれているし、プロたちの目にもとまったんだよ。

 広報担当の人にも、吉田さんにも、僕にも。そして、涼也にも。

 もうここまで来たら、それは偶然なんかじゃない、才能だよ」


「才能……」


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