今日から君の専属マネージャー
涼ちゃんはその場でスマホを取り出して誰かと電話をしていた。
電話が終わると、「行こうか」と言って、私の先を緩やかに歩き出す。
涼ちゃんの周りを、桜の花びらが舞う。
喜んで戯れる。
そんな姿も、すごく似合う。
涼ちゃんがやってきたのは、学校の裏門だった。
こっちの門を使う人はほとんどいない。
人気もないその場所は、その代わりに桜の木々がぎっしりと植えられ、小さな桜の花が詰め込まれるように密集して咲き誇っていた。
裏門についてから数分後に、見覚えのある車が止まった。
その車から出てきたのは、楓君だった。
「美鈴ちゃん、久しぶり」
楓君はすごくラフな格好でやってきた。
キャップを反対向きにかぶり、いつもの女の子をとりこにするようなチャラチャラとした軽い感じではなく、仕事を抜け出して自由奔放な身軽さのあるお兄さんに見えた。
「この辺でいい?」と聞きながら、楓君は車のトランクから次々と荷物を下ろしてくる。
「え? 何? これから何が始まるの?」
「撮影」
涼ちゃんはさも当たり前のように言った。
そして私は車に乗るよう促された。
車の後部座席の扉を開け放ち、私はそこに座らされた。
車の外では、涼ちゃんが鞄の中からメイク道具を出していた。
「美鈴、メイク下手だな」
そう言ってくすくすと笑いながら、私の顔をメイク落としで優しくふいていく。
「これから俺が、かわいくしてあげるから」
そう言って私の顔をのぞき込んでくる。
その不意打ちに、胸がどきんとなる。
涼ちゃんにメイクをしてもらうのが久しぶりなのもあって、終始緊張しっぱなしだった。
頬に優しく触れる指先、髪を丁寧に触る仕草。
懐かしくて、心地よくて、うっとりする。
「こっち準備できたよ」
「よし。こっちもOK」
そう言いながら涼ちゃんは私に手鏡を渡す。
そこに映る自分の姿に、なぜか涙があふれてくる。
涼ちゃんにかわいくしてもらえるのが、私は一番嬉しい。