今日から君の専属マネージャー
報告書12.完璧なマネージャーー


「じゃあ、戸締りよろしくね」

「はーい、京子さん行ってらっしゃい。今日も暑いから気を付けてね」


エプロンを付けた涼ちゃんが、そうやって家族を送り出す姿も、すっかり見慣れてしまった。


「美鈴、準備できた?」

「もうちょっと……」


今日は、初撮影の日だ。

ファッション誌の専属モデルとしての、初仕事。

ここまで来るのに、あれから一年たった。

コツコツとオーディションを受け、受けては落ち、めげずに書類を出し、そうかと思えば、書類審査に合格したり、一次審査を通過したり、一喜一憂の激しい日々を送っていた。

オーディションを受けに行ったり、履歴書を出す中で気づいたことは、学力ゼロ、体力ゼロ、女子力ゼロ、自己管理能力ゼロを堂々と自負してはいけないことだ。

同じモデルでも、一般教養を身に着けている人といない人では空気感が違った。

自己管理能力のある人は、いつも冷静で落ち着いていて、余裕が見えた。

履歴書の特技や資格欄に何も書けないことがこれほど苦しく情けないことだとは思わなかった。

私は大学にはいかなかった。

その代わり、英会話教室に行ったり、フィットネスクラブに通ったり、本や新聞をよく読むようになった。

登録はしていたけど、結局三日坊主に終わったSNSの投稿も再開した。

また、モデルになりたいと言いつつ、今までファッション誌を読んだことがなかった。

だけど定期的に購入して、今のトレンドを把握したり、表情やポージングなどの勉強もした。

それこそSNSを活用した。

憧れのモデルさんの経歴や特技や趣味を研究して自分もやってみた。

何をしてもダメ、なんて言わず、何でもやってみようと思えるようになった。

いろんな方面に目を向けようと思った。

モデルだけでなく、女優やミュージカル俳優、声優といった仕事。

とにかくいろんなものや人を見て、自分の考え方を少しずつ変えていった。

私の、専属マネージャーを見習って。



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