今日から君の専属マネージャー

その重圧に耐えきれずうつむいていると、


「誰が芸能人のマネージャーをしてなんて言った?」


吉田さんがそう言った。

その言葉に思わず、「え?」と顔を上げた。


「僕は、羽瀬涼也の専属マネージャーをお願いしたんだけど」


吉田さんのきらりと光る瞳が、私をとらえている。


「もう一度聞くけど、美鈴ちゃんはこのままでいいの?

 このまま涼也に、何も言わず、お別れでいいの?」


「でも、もう話なんて聞いてもらえないだろうし、私の話なんて聞きたくないだろうし」

「どうしてそう思うの?」

「え? だって……」

「涼也がそう言った?」

「いや、言ってないですけど」

「君は、涼也のことを知りたいと思わないの?」

 吉田さんの目がきりりとなる。

「君は、涼也がどんな風に仕事をしているのか、気にならないの?」


私は何も答えない。

その理由は、知りたいと思っていないからだ。

涼ちゃんのファンでもないし、芸能界に興味もない。

だけど、そんなこと正直には言えない。

だから口をつぐむ。

それなのに吉田さんは「ふふっ」と笑って、「美鈴ちゃんは正直だなあ」と意地の悪い目を向ける。

顔に出てしまっていただろうかと、両手で顔を押えると、吉田さんはベッドの上で態勢を整えた。


「そっか。そんなに涼也のことが知りたいのか」

「はい、すみません」


 そう言って申し訳なく頭を下げてから、「ん?」とその返しのおかしさに気づく。


「そうだよね。気になるよね、涼也のこと。

だって、今人気絶頂のモデルだもんね。

何でもできちゃうイケメン完璧男子だもんね。

そんな涼也が気にならないわけないよね」


「え? ええ?」


 何とか誤解を解こうと口をパクパクさせる。

だからって、「いや、興味ないですから」なんて馬鹿正直には言えない。

私があたふたしていると、吉田さんは急に穏やかな顔を私に向けた。


「仕事を始めるには、まず人を知ることからって言うでしょ?」


吉田さんは軽い感じでそう言って、ニコッと笑った。

その笑顔に、なぜか安心感が湧いてくる。


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