今日から君の専属マネージャー

吉田さんはベッドの背もたれに体を預けて、友達のことを話すような感覚で、涼ちゃんのことを話し始めた。


「あいつは中三の時、雑誌のコンテストでグランプリ獲ってこの仕事を始めた。

 それから一気に人気が出て、今では売れっ子モデルになった。

 顔もスタイルもいいうえに何でもできちゃうから、いつの間にか完璧男子なんて言われるようになってさ。

 涼也としては無意識というか、無自覚というか、「やってみたらできちゃった」ぐらいの感覚なんだろうけど」


「はあ……」


それはそれですごい。

うらやましい才能だ。


「だけどね、涼也自身は決して完璧主義ではないんだよ。

 ただ、「完璧男子」というゼッケンを貼られたからには、その役割を果たそうという使命感が強いんだよね」


__完璧主義じゃない、完璧男子。


「それは、どういう意味ですか?」


「あいつはただ、ちゃんとしたいって思ってるだけなんだ。

 ただの「しっかり者」なんだよ。

 だから、人に迷惑をかけるのも嫌いだし、弱音を吐いたり、誰かに頼ったりすることも苦手。

 そのくせ、人の役に立ちたいと思ってる。

 まあ何でもできるゆえ、時々人に任せるより自分でやった方がいいと思っている節もある。

 他人に任せておけばいいことも、任せきれない。

 だから全部自分でやろうとする。

 良くも悪くも、完璧男子」


吉田さんは、悔しそうな、呆れたような、複雑な表情で言った。


「だからさ、ほんとは僕なんていなくても、たぶん涼也は自分でできちゃうんだよね。

 むしろやっちゃうんだよね。

 人に任せるより、自分でやった方が早いし、楽だから」


「そんなこと言われたら、私なんてもっと必要ないじゃないですか。

 一人でできちゃうんだし。

 私にできることなんて、何もありません」


「それがあるんだなあ、これが。

 学力ゼロ、体力ゼロ、女子力ゼロ、自己管理能力ゼロの美鈴ちゃんにも、今すぐできること」


吉田さんに言われると、ほんとのことでもなんとなく癪に障る。

そんな私の心情を気にかけることもなく、吉田さんは人差し指を一本立てて、得意げで不気味な笑みを浮かべる。


「それは、ほめる、だ」

「ほめる?」

「そう、ほめる。

 これが僕たち凡人マネージャーにできて、完璧男子にできないこと。

 ほめるって自分ではできないでしょ? 誰かにしてもらわないと」


言っている意味は分かる。

筋も通っている。

だけど、なんだか腑に落ちない。


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