今日から君の専属マネージャー

 改札を通り抜けたところで、私は涼ちゃんに聞いた。


「涼ちゃん家もこっちなんだね。

芸能人なのに、こういう庶民的なところに住んでるんだ」


「うーん、違うけど。だって俺んち、美鈴が乗った電車と逆方向だし」

「え? じゃあなんでここに……」

「こんな遅くなったし、女子一人夜道を歩かせるわけにはいかないじゃん。

家まで送るのは当然でしょ」


 その事実を知ったとたん、耳元に血液が流れ込んでくるのがわかる。

こんなことされ慣れていないから、体中がむず痒い。

頬のほてりを感じていると、そこにぽつりと冷たいものが落ちてくる。

落ちてきた先を見上げると、またひとつ、またひとつと、大粒の雨が落ちてくる。


「あ、雨?」


 確かに、湿り気の混じった独特なにおいが先ほどより濃くなった。

そう言っている間に、雨脚は一気に強くなった。


「うわっ、一気に来たな。美鈴、行くぞ」


 そう言って私の手を取り走り出す涼ちゃん。

つないだ手から伝わる、涼ちゃんの体温、皮膚の感触。

その感覚に、胸の鼓動が大きくなる。


__なにこれ、息が、どんどん、苦しくなる。


「美鈴、失速早すぎ」


 ぜーぜー息を上げながら走る私に、涼ちゃんの呆れた声が飛ぶ。


「だ、だから、私体力ないって言ったじゃん」


いや、ほんとはそんな理由じゃないよ。

私、涼ちゃんにときめいてる。


__「恋はダメだよ」


吉田さんの言葉を思い出して、さっきよりも胸が苦しくなる。

その苦しさに顔をしかめた時、


「って、美鈴んち、どっち?」


その言葉に、思わずがくんと片方の肩が落ちた。


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